男と女の出会い
男と女の出会いほど、不確かで偶然に満ちたものはないだろう。ぼくはいつも「トリスタンとイゾルデ」の物語を思い出す。中世ヨーロッパ最大の悲恋とされるこの物語は、ワーグナーの楽曲でも有名であり、また「アーサー王と円卓の騎士」の挿話でもある。
コーンウォールのマルク王は、アイルランドの王女イゾルデを妻に迎えるべく、騎士トリスタンを遣わした。異国の地に嫁ぐ娘のため、王妃は永遠の愛を約束されるという媚薬を娘の侍女に預け、密かにマルク王とイゾルデに飲ませるように指示した。ところが、侍女は誤って、使者たるトリスタンとイゾルデに媚薬を飲ませてしまう。たちまち恋に落ちたふたりは激しく愛し合い、王の目を盗んでは密会を重ねた。激怒した王は、トリスタンを国外へ追放した。
トリスタンは、新たに妻をめとった。しかし、トリスタンはイゾルデを忘れることができない。ある戦いで瀕死の重傷を負ったトリスタンは、イゾルデに船を遣わした。海の見える高台の部屋で、彼は使者にこう命じていた。イゾルデが一緒ならば船に白い帆を、来ないときには黒い帆を掲げよ、と。
はたして、イゾルデは白い帆を掲げた船でやってきた。ベッドから立つこともできないトリスタンは、傍に立つ妻にこう聞いた。旗の色は白か、黒か、と。使者との会話を盗み聞きしていた妻は嫉妬にかられ、「黒の帆だ」と答える。
絶望したトリスタンは、「イゾルデ」と四度叫んでそのまま息絶えたという。訃報の鐘を聞いてかけつけたイゾルデもまた、愛するトリスタンのなきがらを抱きしめたまま息を引き取る。マルク王は彼らのために二つの墓を作った。夜になるとトリスタンの墓から、一本の蔦が生え、イゾルデの墓の中にのびていく。切っても切っても、夜になると蔦は伸びて、再びイゾルデのもとへ。王はその蔦を切ることを禁じたという。
